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焼き入れとは?鋼を焼き入れするとなぜ硬くなるの?

公開日/更新日:2023.07.05

普段、何気なく焼き入れを行っていると、鉄が硬くなる理由なんてあまり考えませんよね。

ですが、この記事を読んでくださっているということは、「焼き入れすると、なぜ鉄が硬くなるのか」が、ふと気になったのではないでしょうか。

そこで、この記事では焼き入れがそもそもどのようなものなのかを解説し、焼き入れすると鉄が硬くなる理由や焼き入れ方法の種類を紹介します。



焼き入れとは

焼き入れとは、材料を硬くするために高い温度で熱したり、加熱後に冷やしたりすることを指します。まずは、炉の中で組織の構造が変化する温度(変態点)以上に熱し、その後水や油などに入れて急速に冷却することで、鋼が硬くなるのです。

焼き入れを行うことで、材料の強度・硬度・耐疲労性(壊れにくさ)・耐食性(錆びにくさ)などが向上します。

そのため、工作機械や自動車など、衝撃や摩擦が起こりやすい製品の部品を作る際などは、材料の時点から強度を高めるために、焼き入れを行うのが一般的です。



焼き入れで金属が硬くなる理由

まずは焼き入れとは何なのかを説明しましたが、焼き入れするとなぜ金属が硬くなるのか気になりますよね。ここからは、金属の性質に着目しながら、焼き入れのメカニズムを紹介します。

熱を加えることで組織構造が変化する

鋼は、常温では“フェライト(体心立方格子構造)”と呼ばれる組織構造になっており、この状態の鋼は比較的軟らかく、粘り気があります。

その後、鋼に熱を加えて変態点(911度)を超えると結晶構造がフェライトから“オーステナイト(面心立方格子構造)”へと変化します。
この変化により、鋼の中の鉄、炭素、微量元素が溶け、それぞれが均一に混ざり合うになるのです。

そこから冷やすことで金属が硬くなる

一旦、オーステナイトに組織が変わった鋼を急速に冷やすと、フェライトの状態に戻るのではなく、マルテンサイトという組織に変化します。

マルテンサイトについて簡単に説明すると、オーステナイトの時点で混ざり合ったそれぞれの要素(鉄や炭素)がそのまま固まった状態、と考えるとわかりやすいかもしれません。

なお、組織をマルテンサイトに変化させるうえで、重要になってくるのは“急速に冷やす”という点です。

急速に冷やすことがポイント

オーステナイトをゆっくり冷やすと、鋼の組織構造はフェライトへと戻り、このとき、オーステナイトの隙間に入り込んでいる炭素は隙間から外へと出ていきます。

しかし、オーステナイトを急速に冷やすと、隙間に入り込んだ炭素が外へ出る前に、鋼の結晶構造がフェライトへと戻ろうとし、外に出ようとする炭素と収縮しようとするフェライト状態の鋼の組織が互いに反発しあいます。

その結果、反発しあう力が組織全体に歪みを生じさせ、先ほど説明したマルテンサイトという構造に変化することで、鋼が硬くなるというメカニズムになっているのです。



焼き入れと焼き戻しをセットで行うのはなぜ?

焼き入れすることで鋼は硬くなりますが、実は焼き入れだけでは、鋼が割れやすくなるなど、デメリットの部分もあるのです。そこで一般的に焼き入れの後に行うのが、変態点を超えない温度で再加熱し冷却する“焼き戻し”です。

焼き戻しをすれば、粘り強さを持たせることができ、鋼は衝撃に強くなっていきます。硬度と粘り強さは反比例の関係にあるため、同時に両方を高めることはできませんが、焼き入れと焼き戻しをセットで行うことで、徐々に硬度と粘り強さを高めていけるのです。



焼き入れ方法の種類

金属の硬度を高められる焼き入れですが、焼き入れにはいくつか種類があります。
ここからは、焼き入れ方法の種類について紹介します。

真空焼き入れ

真空状態にした炉内で金属を加熱し、急冷することで鋼を硬くする焼き入れ方法を、「真空焼き入れ」といいます。
真空状態で焼き入れを行うことで、金属の表面の酸化や、空気中の酸素と金属表面の炭素が結合して炭素が失われる脱炭を防ぐことができます。
これにより、硬度にムラのない、光沢のある製品に仕上げられるのです。

浸炭焼き入れ

低炭素鋼の表面に炭素を浸透させる焼き入れ方法を、「浸炭焼き入れ」といいます。
本来、低炭素鋼は焼き入れに向きませんが、炭素を浸透させることにより表面層のみ硬く耐摩耗性に優れ、内部は軟らかく靭性のあるものを作ることができるのです。
また、硬くしたい部分にだけ炭素を浸透させられるため、焼き入れの自由度が高いというメリットがあります。

高周波焼き入れ

高周波によって金属の表面だけに焼き入れする方法を、高周波焼き入れといいます。
金属に銅線のコイルを巻きつけて焼き入れを行うため、目的の場所にだけ焼き入れすることが可能で自由度が高い焼き入れ方法です。
他の焼き入れ方法に比べて消費エネルギー量や二酸化炭素の排出量が少ないため、環境に優しいというメリットがある一方、複雑な形状のものでは加熱ムラができやすいというデメリットもあります。



おわりに

焼き入れを行うと、温度変化により鋼の結晶構造が「フェライト→オーステナイト→マルテンサイト」と変化し、材料を硬くすることができます。

金属のメカニズムに着目してみると、改めて鋼の性質の面白さを感じられたのではないでしょうか。
この記事をきっかけに、焼き入れや焼き戻しなど、熱処理に関するそれぞれの工程や得られる効果について、さらに理解を深めてみましょう。

また違った観点の面白さを発見できるかもしれませんよ。

金属の性質を変える“熱処理”については、別記事でも紹介してるので、そちらも併せてご覧ください!
>> 熱処理とは?様々な種類の熱処理方法を徹底解説!